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能勢伊勢雄の「遊図」
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能勢伊勢雄さんの創る「遊図」とは、時間と空間を縦横無尽に横断しながら概念を結びつける「知図」(地図)のことだそうです。今回の展覧会では全部で19枚の「遊図」を発表しています。

#-1 四大・エーテル体思想は渦輪を描く
#-2 四大・エーテル体循環思想は共に渦輪を描く
#-3 流体から渦輪へ
#-4 渦輪から螺旋へ
#-5 海流に乗った古代海洋渡来民族と國生み
#-6 龍神体(アストラル体)の禊浄め=神業
#-7 古神道言語旋回螺旋 言霊学
#-8 思弁世界としての宇宙論#1
#-9 思弁世界としての宇宙論#2
#-10 思弁世界としての宇宙論#3
#-11 西洋思弁哲学史#1(スコラ哲学へ)
#-12 西洋思弁哲学史#2(ディオニソス伏流)
#-13 西洋思弁哲学史#3(メディア・パラクレート)
#-14 音律から音階へ
#-15 アントロポゾフィー形態学
#-16 人間と自然の渦流的モルフォロギー
#-17 ストレンジ・アトラクター→人工生命体
#-18 世界創出から螺旋に向かう神聖幾何学
#-19 生命史

これらの「遊図」の実際の内容については展覧会でご覧いただきたいのですが、それぞれの「遊図」について、知の渦で遊ぶための入り口を簡単に紹介いたします。またいくつかの「遊図」については特別に能勢さんに許可をいただき、実際の内容を掲載いたしました。

#-1 四大・エーテル体思想は渦輪を描く
今回のテーマである渦にまつわる記憶を描くにあたって1番目にふさわしいテーマを選んでいます。ギリシャ時代に物質の根源が循環してこの世界を作り上げているという思想が生まれ、その物質の根源は四大と呼ばれる地、水、空気、火でした。そして、それらの組み合わせから物質を形づくる働きをエーテルとしました。#-1ではエーテルの働きによって四大が循環して世界が作られることからこの展覧会がスタートします。

#-2 四大・エーテル体循環思想は共に渦輪を描く
エーテルについてのことがらをまとめたのが#-2です。デカルトが考えたエーテル空間論では、エーテルは宇宙を満たしいくつもの同心円状の渦輪を描きます。#-2ではエーテルにまつわる人類の記憶を描きあらわしています。

#-3 流体から渦輪へ
#-3では現実に物質界に現われている渦を描きます。水の中に現れるカルマン渦のような現実の渦のもつ本質や、例えば人体、骨のようなものにも渦が認められ渦を通じて形態形成ができるというような、渦のもつ幅広い本質も描きだしています。(カルマン渦や人体、骨に認められる渦については3ページの植田さんのレクチャー録参照)

#-4 渦輪から螺旋へ
渦は螺旋の性格をもっています。#-4では螺旋の本質的な意味を描きだしています。右廻りの渦は形成力、左廻りの渦は解体力です。例えばロダンのような彫刻家の作品を見ると、形を作っていく時は少し右側にひねっている、指先のようなところでは左側にひねっていて形態が失われていく感じが強く出ています。無意識に渦の本質を理解していることがわかります。

#-5 海流に乗った古代海洋渡来民族と國生み
テーマは大きく変わります。#-5は海流。これも渦巻いています。その海流に乗ってボートピープルのようにして日本に古来から漂着した民族であるアマ(海)民族が古代国家、日本の国土を作り上げていきました。「古事記」以前の国産みの記憶です。

#-6 龍神体(アストラル体)の禊浄め=神業
その漂着した民族たちの神々が仏教伝来後に仏教中心の国になり、神道は抑えつけらえれて行きます。その後、武家政治が崩壊して、仏教の力が弱まると同時に神道が復活してきます。黒住教、天理教、金光教などの神道が噴き出してきます。歴史の伏流で生き続けてきた古代の神々が復活してきたのです。神々につかえる人たちの神業、その中心には龍神体が存在します。龍は渦です。龍は渦巻く力を象徴しています。そうやって人間は渦巻くものを祀っていきます。

#-7 古神道言語旋回螺旋 言霊学
日本古来からある神道の3つの言霊学(天津金木学、天津菅會学、天津祝詞学)によって立ち上げようとする神、それが古事記の最初に書かれてある「宇麻志阿斯訶備比古遲神」です。この3つの言霊学を研究してきた水谷清が作図した「言霊伸聚運動」を見ると、日本の言語間の根底に渦があることがわかります。

#-8、#-9、#-10 思弁世界としての宇宙論
エーテル理論は、ニュートン力学が出てくるまでの間、物理学の中心でしたが、ニュートン力学によってエーテル理論は否定さました。物質の根底には素粒子が渦巻いています。物理学は最も小さなもの、根源的なものは何か、ということを延々と追求します。そうやってたどり着いたものが素粒子論です。またそれは宇宙の根源でもあり、物質論であると同時に宇宙論でもあるのです。その根源にアプローチしていくプロセスは、存在がわからないものを想定してそれを測定によって確かめようとする、現実からではなく考え方が先行する推論法です。頭の中が先にきて後に検証するようになってくると、それは人間の問題になってきて、結局、思弁的(現実ではなく頭の中だけで考えようとすること)な世界、例えばスコラ哲学、新プラトン主義のようなオカルトコスモロジーと紙一重になってきます。そういう展開をしている近代物理学の中にみえる渦を#-10までの3つの「遊図」であらわしています。

遊図#8

#-11、#-12、#-13 西洋思弁哲学史
はじめはスコラ哲学をめぐってまとめています。スコラ哲学は、神的本性、形を形づくっていくものと人間が結合していくための哲学です。創造主であるキリストの姿をどうみるかという哲学でもあります。このスコラ哲学以前、以後を含めた背景にも渦的なものが見えます。スコラ哲学以後の展開を見ていくと、度々、悪魔とかゴールデンドーン(西洋儀式魔術秘密結社)、オカルティズムの発生にもつながっていくのが見えます。また、刺激的な方向性をメディアの中で展開するメディアパラクレートといわれる考え方にもつながっていきます。映像作家ケネス・アンガーの作品「ルシファー・ライジング」の中にあるメディアを通じて人に魔法をかけるような効果を徹底的に追及しているような方法論があるのです。それは未来のメディア、映像、アートなどに意図的に取り込むこともできるようなひとつの基準となるかもしれません。

#-14 音律から音階へ
ピュタゴラス音階(音階はピュタゴラスが発見したと言われている)も螺旋構造をしています。ピュタゴラス音階はピュタゴラスコンマという矛盾をもち、音程を積み重ねていくと1オクターブごとに24セント(1/1200オクターブ)の周波数ズレを生じるのです。そのため、極めて大雑把に言いますと、12音にズレを平均的に割りふって現在の音階の大半が作られています。人間の耳にはわかりませんが、この音階によって作られる音楽は完全に響き合っているとは言えないのです。なお、能勢さんからの提案によってJINMOという日本人音楽家に完全に響きあう202音階を開発してもらい、完全に響きあうことのできる音楽が出来上がっています。遠くない未来にこの完全に響きあう音階が主流になるかもしれません。(この202音階で作曲されたCDは展覧会場で販売しています)

#-15 アントロポゾフィー形態学
#-1で四大に対するエーテルの働きのことを述べました。物質に対して、宇宙の果てからは溶解力が、地球の中心からは凝縮力が働いています。人間は死ねば体は腐り溶解していきます。それを止めるために、地上にある凝縮力の塊である生物を食べることにより、形をとどめているのです。この#-15は、今回の展示の中核となる「遊図」で、最も多くのインスピレーションを与えるものです。

遊図#15

#-16 人間と自然の渦流的モルフォロギー
ヨハンナ・F・ツィンケという女性の研究者は声の形態を明らかにしました。寒い日の外で、声を発音して吐く息に現れる形を何枚も写真に撮影し、膨大な写真に共通する部分を声の形態としてまとめています。その形態の図を中心にノヴァーリスの文学作品の中にあらわれた渦流的なモルフォロギー(形態学)にまつわることを描きました。ここでのキーワードは声です。

#-17 ストレンジ・アトラクター→人工生命体
京都大学の上田晥亮が非線形微分方程式の一般解を求めるためにコンピュータを用いた時に解がおかしくなったことがありました。その時のコンピュータのふるまい、機械の中のゆらぎのようなものを図化したものが「ジャパニーズ・アトラクター」と呼ばれ、パリの科学博物館に展示されています。AIのような人間が考える人工生命体とは異なる機械の中から生まれる生命体のふるまい。その形は渦を描いています。

遊図#17

#-18 世界創出から螺旋に向かう神聖幾何学
幾何学の中に最初に現われた渦は、テオンのレトリックにより「直角三角形の3辺が等しくなること」の証明に用いた作図でした。その形状はグノーモン螺旋という植物が成長するときに現れる螺旋の形をしており、成長螺旋とも言われています。

#-19 生命史
今回の展覧会では19枚の「遊図」を展示しています。これは会場の制約によるもので、はじめは30ほどの「遊図」を構想していました。それだけある「遊図」の最後に全体をまとめる意味で「生命史」をテーマに選びました。中心には植物の螺旋性(グノーモン螺旋)と垂直性を描いたゲーテの素描を配し、ゲーテ=ラマルク系の「形体生物学」の全体像をまとめています。

 

能勢伊勢雄からのメッセージ
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最後に、能勢さんに「遊図」と最も伝えたいことをたずねました。 「アートは未来に対して示唆を投げかけなくてはいけない。そうでなくては許されないところまで来ている」と言います。「そういう力を具体的に持ちえないアートには意味がない。未来のために意味のあることをやらないといけない」とまで言う能勢さんは「今、世界はとても危うい状態になっている」と考えています。是非、この「遊図」をご覧になって、皆様も一緒に危うい世界の未来のことを考える手がかりを得ていただければと思います。

なお、19枚の「遊図」と植田さんの作品をまとめた図録は展覧会場で販売していますので、お持ち帰りになりゆっくりご覧いただければと思います。

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