堀井一仁の「美術と家族 vol.88」、多くの方にお越しいただきありがとうございます。

外からも眺める100号の作品は本展が初公開であり、家族さえ存在を知らなかったという秘蔵品。

会期後半にお越しくださった堀井さんは、最初にこの作品の正面に向かい

「(この作品)どうですか?」と尋ねられた後に自作を見上げる姿がとても印象的でした。

おそらく私には簡単には計り知れない歴史のようなものを感じて、

少し離れたところからシャッターを切りました。

しばらく無言で、ただじっと作品を見ました。

堀井氏とご一緒に来廊された夫人が、感激のあまり思わず顔を覆われた姿を見て、

私もこみ上げるものがありました。

それは、4年前に最初に作品を拝見してから今回の個展に至るまで、

またそれ以前も含め、様々な想いを重ねてこられてのことだという想像は十分にできたからです。

堀井さんの作風は多岐にわたり、風景画や静物画から人物、抽象に至るまで

実に様々な表現を取り入れています。

現代アート作品を長く扱っていると、見たこともないような斬新なものや、

想像を超えた得体の知れないものを求めてしまうような所があります。

もちろん、常に新しい価値観を提示する意味でも、それは必要な事だと思いますが。

ただ、堀井さんの作品を見ていると、絵に意味を問う必要がなく、

美しいものをただ美しく、心に響いたものをそのままキャンバスに残すという

絵画の原点を改めて教えてくださった気がして清々しい気持ちになりました。

その作品は、どれも共通して穏やかさをたたえています。

抽象作品の中にコラージュされたリルケの詩。

当時放送されていた「プロジェクトX」の主題歌である中島みゆきの「地上の星」を

好きだった堀井氏が、曲をイメージして描いた作品。

画家人生で唯一の裸婦画。

作家同士の会話は弾むようで、

この時来廊中の画家 椎名さんとの会話は笑顔がたくさんでした。

この日の取材記事は、堀井氏の画家人生を的確に書きとめてくれています。

堀井氏の「自由に絵が描けて、歌を歌える平和に感動した」という言葉に

画家人生の全てが集約されていると言っても過言ではない気がします。

当たり前のことが当たり前にできなかった時代をも駆け抜けた画家本人だからこそ言える

実に重い意味深い言葉だと思います。

その言葉を聞いた我々が、何を取捨選択し、どのように時代を生きていくのか?

人生の大先輩でもある堀井さんの言葉をかみしめながら、この時間に感謝が尽きません。

美術は 特別な人間の道楽でも、リタイア後の選択でもない、

人生そのものだと申し上げておきたい。

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